社会的うつ病-2

2012年09月24日

今号も引き続き、『「社会的うつ病」の治し方 人間関係をどう見直すか』斉藤環著(新潮選書)を紹介します。今号は、著者がうつ病の回復において「人薬(ひとぐすり)」と呼ぶ、人間関係の活用について紹介します。

まず、著者は「自己愛の脆弱さ」という問題があることを指摘しています。…自己愛が弱い、といっても、もちろん自己愛がないわけではありません。「自分という存在が大切である」という感覚が、とても不安定であるという意味です。うつ症状と自己愛の安定性が緊密に絡み合っているために、自己愛が損なわれる場面では容易にうつに陥り、自己愛が安定する場面では、あっさりとうつから回復する、ということです。

自己愛という言葉から「わがまま」とか「自己中」といった言葉を連想した人もいたかもしれません。しかし自己愛の意味は、もちろんそれだけではありません。「自分はかけがえのない存在である」とか、「生きていて良かった」といった感覚も、一種の自己愛です。また、他人を愛する気持ち、何かを大切に思う気持ちも、そのおおもとは自己愛に由来されるといいます。突き詰めて言えば、健全な自己愛なしでひとは生きていけません…そして、健全な自己愛の発達のために、ひいては、自己の発達のために、コフートは、三種類の他者・関係が必要であると考えました。

①幼い自己には「何でもできるすごいボク」といった、誇大な自己が含まれます。子どもの誇大な自己を肯定的に受け入れ、それを褒めてくれる母親との関係。母親は、共感とともに子どもの自己をありのまま、映し返したり響き返したりします。大切なことは、母親がここで、子どもの誇大さをたしなめたり叱ったりする必要がない、ということです。

②子どもの中にある理想的な親、スーパーマンのように万能な親というイメージとの関係。こちらについては父親のイメージが重要とされています。子どもはこの関係を通じて、理想の大切さを次第に理解していきます。

③三つ目の他者や関係には、きょうだいや友人関係などが該当します。自分と他人は同じような存在、弱さを抱えた人間である、という同胞意識に近いものです。①と②の関係も大切なものですが、それだけでは自己愛は保てません。失敗したり自信をなくしたりしたときには、弱った自分を支えてくれる存在が必要です…私たちに「同じ人間」「同じ仲間」という認識を通じて、対人スキルをはじめとするさまざまな技術を学習させてくれるのです。そして、三つ目の関係性は、家族以外の対人関係によって発達する関係性です。対人関係のあり方は、家庭内と家庭外では、全くといっていいほど異なります。子どもが社会の中で通用するような対人スキルを獲得するためにも、この三つ目の関係は極めて重要なものになるでしょう。引きこもりの事例などで、家族以外の対人関係を長期間にわたり持たずにいることが問題となるのは、この三つ目の関係がないため、ということもあります。その結果、自己愛の発達が止まってしまったり、いったんは発達した自己愛が、退行してしまったりします。「高いプライド」と「低い自信」というバランスの崩れた自己愛のあり方とも無関係ではありません。

 

もうひとつ、コフートの概念の中で重要になるのが「適度な欲求不満」という言葉です。この“ちょっとした不満”が大切なのです。もしも親が、いつでも子どもの期待通りの反応ばかりを返していたら、かえって子どもの成長は妨げられてしまうでしょう。むしろ小さな欲求不満をくりかえし感ずることで、子どもは親によって理想化されすぎたイメージを、少しずつ現実的なものに修正していくことができます。また、このとき子どもは、欲求不満を抱えつつも、そのつど自分を上手になだめるやり方を学びます。この考え方からすれば、親が子どもの言いなりになることも、逆にしつけと称して親の意見を一方的に子どもに押しつけることも間違いです。子どもの事情と親の事情をすりあわせながら、現実的な妥協ラインをみつけていくことが大切になります。この原則は、親子関係のみならず、あらゆる人間関係にあてはまるでしょう。すでにおわかりの通り、「ほどよい欲求不満」こそが、人の成長を促す大きな要因となります。成長するのは子どもばかりではありません。親自身もまた、子どもという思い通りにならない他者との関係において、自らの自己愛をより洗練されたものにしていくことになります。こうして互いに成長し合う関係こそが理想的な人間関係であることは言うまでもありません。

つまり、うつ病からの回復に必要な、自己愛の成長、また、傷ついた自己愛の修復においても、他者との関係の再建が重要な意味もつということです。端的に言えば、家族以外の対人関係や、時には、勉強や仕事といった活動ですら、修復において少なからず意味をもつということです。たとえば、その回復期にあたっては、毎日一定の場所に通うことや、そこで負担の少ない活動に関わること、また活動を通して人とのつながりができること、これらすべてが治療的な意味をもつのです。次号は、より具体的なうつへの対応について紹介したいと思います。


  • 過日より充足していました男子寮ですが、空き部屋の調整ができましたので、相談させていただきました方から、ご希望があれば順に九月十三日(水)以降から受け入れをさせていただきます。

  • 学校法人西濃学園公式LINE@はじめました!今すぐ友だち追加しよう!
  • 不登校児童生徒の自立へつながるための連携協定が締結されました
  • 2024年度 西濃学園 学校説明会
  • 令和4年度教育者表彰(文部科学大臣表彰)学校法人西濃学園 学園長 北浦茂|学園長代理 加納博明
  • 学校法人西濃学園奨学金基金 奨学生募集について
  • 西濃学園の寮生活
  • 寄附金募集のお知らせ
  • 文部科学省から不登校特例校として指定されました。
  • 消費税法改正に伴い、学費が変更となります
  • 学園日誌
  • スタッフ募集
  • 西濃学園中学校いじめ防止基本方針
  • 西濃学園高等学校いじめ防止基本方針
ページ先頭へ戻る