社会的うつ病5

2012年12月19日

今号も引き続き、『「社会的うつ病」の治し方 人間関係をどう見直すか』斉藤環著(新潮選書)を紹介します。「治療としてのコミュニケーション」について、具体的に紹介していきます。

 

…会話が良いことはわかったが、話題が思いつかない。何を話していいか分からない、というご家族もいます。私が理想とする会話は、これまでにも述べたとおり「毛づくろい的コミュニケーション」ですから、別に内容はなくてもかまわないのですが、現実にはそうもいかないのもわかります。そうした場合に考えていただきたいのが「リレーショナル・メッセージ」です。これは私の造語ですが、要するに相手を関係性に巻き込むような、パフォーマティブなメッセージ、というほどの意味になります。何やらややこしそうですが、これは要するに「挨拶」「誘いかけ」「お願い事」「相談事」などを指しています。いずれも本人の望ましい反応を期待してやるわけではありません。これらはすべて、届くかどうかわからない「お祈り」みたいなものです。これらの働きかけが有効だとすれば、それはこうした働きかけの中に含まれている言外のメッセージに意味があるからです。すなわち、本人に対する肯定的メッセージです。

…会話をすすめるにあたって大事なことは、分かりやすい態度を貫くということです。できるだけ裏表がなく、わかりやすい態度です。水面下での戦略とか駆け引きとかがあると思われてしまうと、本人の不信感はかなり根強いものになります。…本人は、家族に対しては恨みと感謝が入り混じった複雑な思いを抱いていることがしばしばあります。いわば、敵か味方かという二つの価値観の間で分裂しているのです。…誠実な関係を築こうと思ったら、皮肉や当てこすり、嫌味といったテクニックは、とりあえず抑えていただかなくてはなりません。家族はそうしたことを何気なく口にしますが、本人はしばしば、予想以上に傷ついているからです。また、会話が少ないご家族では、お互いに腹の探り合いになってしまっていることがよくあります。…うつで休んでいる本人は、しばしばそういう家族の雰囲気を含む、さまざまなノン・バーバルなメッセージに怯えながら生きているということを忘れないでください。

…とはいえ、生活時間帯がずれてしまうなどして、ほとんどすれ違いのような生活をおくっている家族もあります。そうした場合、私はせめて一回だけでも一緒に食事を取ることをお勧めしています。…うつ状態で苦しんでいる人は、しばしば家族とも顔をあわせたがらず、食事も一緒にはしなくなってしまうことがあります。本人が一緒の食卓につきたくないという気持ちの中には、ご家族のなんらかの態度が気に入らないとか、言葉で傷つけられたような思いがあるのかもしれません。はっきりした理由があるのなら、それをちゃんと聞きとり、出来るだけ本人の気持ちが楽になるような対応を心がけていただきたいと思います。そのうえで「食事だけは一緒にしよう」とお願いしてみましょう。すぐに実現は難しいかもしれませんが根気よく働きかけてみてください。

…働きかけ続けていく中で、突然、家族への恨みつらみを口にする人もいます。家族からすれば、ちょっと後悔していることから、全く身に覚えがないことまで、まさに「あることないこと」言われている感じです。これほどの批判をぶつけられて、落ち着いて対応できる家族はそういないでしょう。だからこそ、こうした事態を予測して、覚悟を固めておいていただきたいのです。この手の話題についても、とにかく言いたいことは遮らずに、最後まで言わせ、耳を傾けていただきたいと思います。どんなに本人の言い分が理不尽に思えても、決して遮らずに聞いてください。つい言質をとられまいとして、本人の言い分にいちいち反論してしまう家族も多いのですが、反論はむしろ「火に油」です。しかし、自分の言い分がかなり無茶であることは、本人もある程度は判っているのです。判っていながら、言わずにはいられない。だから「それは事実ではない」とか「そんな理屈は通らない」といった「正しい反論」をするべきではないのです。「正しさ」はさして重要なことではありません。本人の記憶が不正確で、明らかな事実誤認があったとしても、本人がどのような思いで苦しんできたか、まずそれを丁寧に聞き取ることに意味があるのです。私なりの表現で言えば、これは「記憶の供養」なのです。たとえ事実ではなかったとしても、そうした記憶を語らずには居られない本人の気持ちに寄り添いながら、少しでもその苦しさを共有するようにつとめること。それは本当のコミュニケーションに入る手前で、家族間の信頼関係をもう一度しっかり築く上でも、どうしても必要とされる儀式なのです。「儀式」ですから、意味や正しさを問うても仕方ありません。よく「いつも同じことを、毎晩、くどくど聞かされるので参ってしまう」とこぼす家族もいます。しかし、そのような家族はしばしば本人に言いたいことを十分に言わせていません…。

 

以上のように、本人と家族の関係は難しいものです。来号は、その難しさに「ルールと交渉」がどのような意味をもつかについてご紹介します。


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