社会的うつ病6

2012年12月19日

今号も引き続き、『「社会的うつ病」の治し方 人間関係をどう見直すか』斉藤環著(新潮選書)を紹介します。これまでも、家族の関わり方について紹介してきましたが、今号の「ルールと交渉」という関わり方と、「セルフケアという考え方」は、家族と当人、そのお互いにとって、とても大切になことになってくるかと思います。

 

<ルールと交渉>

…それにつけても、本人と家族の関係が難しいのは、どうしても密着した二者関係になりやすくて、第三者の介入を頼めない点にあるでしょう。なぜ第三者が必要かといえば、それは精神分析理論からもあきらかです。母子の密着関係は、父親の介入を受けて距離がもたらされますね。…加えて他者の介入は、本人の自己愛の成熟や、社会参加のきっかけとしても有意義なものです。もちろん、家族が他者としてふるまうことも、家族自身が第三者的な役割を担うという点では意味があるのですが。ここでもうひとつ、第三者的なものを導き入れる方法があります。それは「ルール」を決めることです。なあんだ、と思われたでしょうか。あるいは「ルール」でいいなら、なぜ「叱咤激励」や「しつけ」はダメなんだ、と疑問に感じたでしょうか。実は、ルールとしつけは180度異なった方向性を持っているのです。ルールは本人のみならず、親の行動も制約します。しつけは本人のみを縛ろうとします。もうこれだけで大きな違いです。…本人には治療や就労へ向けた努力をうるさく求めながら、家族は治療に協力するどころか、自分のことだけに専念していたらどうなるでしょう。自分を棚に上げること、つまり「ダブルスタンダード」ですね。こうした態度も本人の気持ちを萎えさせてしまいます。これは言い換えれば、本人と家族との関係性に「公正さ」を導入するための手続きです。公正なルールをしっかり導入することができれば、本人もその枠組みを守らざるを得なくなります。だからこそルールは第三者的に機能するわけですし、本人と家族の関係を風通しのいいものにする力を持つのです。

<セルフケアの考え方>

…すでにお分かりの通り、私はうつ病の治療、とりわけその回復期における対人関係の大切さを繰り返し強調してきました。良好な対人関係は、私の言い方でいえば、自己愛システムの補強を通じて、私たちの心身を安定させ、健康に近づけてくれます。ですから、いままさに回復期にある人に向けて、もう一度言っておきたいことは、ある程度元気になってきたら、いきなり復職を考えるよりも、まず人の中に入っていこう、ということになります。同居している家族がいる場合、まずは家族との関係が大切です。…普段から接点のある友人・知人には、ときどき会って話を聞いてもらうことです。長くわずらっていると、さまざまな引け目から、つい知人とは疎遠になりがちなものです。しかし、言うまでもなく、友人や知人との関係は大切な「人薬」でもあります。なかなか会えない場合でも、手紙やメールなどで関係のメンテナンスをしておきましょう。…逆に、回復期にあまり新しい人間関係を広げることはお勧めしません。ただし、治療に関わる場所でさまざまな当事者のかたと交流することはむしろお勧めです。…あるいは治療ということでいえば、うつ病患者の自助グループなども有意義です。…場合によっては時々雑踏に紛れてみることなども、有益な対人刺激たり得ます。…なんらかの趣味があるような場合には、その趣味もしくはそれに近いところでサークル活動やファンクラブなどに入ってみるのもいいでしょう。その延長でいえば、「習い事」があります。…もう少し就労に近い位置づけということなら、ボランティア活動という手もあります…

他にも、斉藤先生は、「身体性の回復」の大切さに言及をし、声楽療法や認知運動療法についても紹介しています。…回復期のうつ病のセルフケアにおいて、身体への配慮はきわめて重要です。ケースにもよりますが、うつ病が重くなると、自分の身体に対してひどく鈍感になることがあります。そうした場合、身体の不調や疲労に気づかないまま無理を重ねて燃え尽きてしまう、といったことが起こりやすくなっています。…うつ病に限ったことではありませんが、多くの精神障害や発達障害においても、身体イメージはなんらかの損傷を受けている可能性があります。損傷には至らないまでも、心身の乖離が生じていることは間違いないでしょう。このために身体への配慮が不十分であったり、心の問題が身体で表現される、といったことが起こるのではないでしょうか。…どんな形であれ、心身の調和的な統合がはかられるような契機があれば、それは多少なりとも治療的な意味を持つのではないか。…「人薬」や「活動」、あるいは「声楽」などが有効であるとしたら、目的ではなくその過程として心身の統合を必要とするためでしょう…

 

以上、半年にわたって、「社会的うつ病」をめぐる人間関係を見てきましたが、いつもの日常の人間関係においても役立てばうれしく思います。


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